小さい頃に聞かされた故郷の昔話というのはなかなか忘れられないものだ。よく出て来るのは蛇にまつわるものが印象的である。それも何故か大蛇なのだ。そして、大蛇というのは中々人前には姿を見せない何か隠れた力を持っているらしい。
大蛇というのは本当に大きくなると大木のように見えるものらしい。私の母方のお爺さんは山の仕事をしていて、深い山に入って炭を焼いたりしていたそうだ。ある時、道に大きな木が横たわっていて「どうして、こんなところに木が横たわっているのだろう」と、その大きな木を何とか乗り越えて行ったが、帰りには、その木がもう存在していなかったとかだ。それで、後から「あれは大蛇だったに違いない」と考えるのである。
また、田植えの季節に大木を引きずった後が山から田圃に続いていて海岸にも残っていた事があったそうだ。これも、後から「あれは大蛇だったに違いない」と同じように考えるのでえる。
大きな嵐のあった次の日の夕方の事だった。海辺の道を歩いていた仕事帰りの若衆がふと海を見ると沖のほうに大木が見えたそうである。大木は売れば結構なお金になるので、あれを取って来ようとという事になった。
ひとり泳ぎの達者な若者がいて、誰よりも早く大木のところに泳ぎ着いたのだった。ところが泳ぎ着いた若者は急に後から泳いで来る若者たちの方を向いて大きく手を振って来るなと合図したのであった。
びっくりした若者たちが唖然としていると何とその大木と先頭を泳いでいた若者へ目の前から忽然と姿を消したのであった。辺りには何も無かったかのような静かな海が不気味にあるだけだった。
あの大木は大蛇だったに違いないと後から長い間噂されたとの事である。
近辺の漁師は海で鎌首を上げて泳ぐ大蛇を見た事があると言うものもいたそうである。
我々は小さな蛇は田舎に行くと良く見かけるが大きなものに成れば成る程人には姿を見せないようなのだ。古い蔵を片付けようとしていて、ビックリするような大きな蛇に出会うというのは良くある話のようだ。そして、もっと大きなものに成ると本当に分からないようなのだ。それは、まさに神のように姿を見せないのだ。
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